ノラ猫が教えてくれたこと
私が結婚して間もない頃。
もう30年ちかく前のことなのに、忘れられない猫がいます。
その日私は、出かけようと玄関の扉を閉めると、団地の駐輪場に並んだ
自転車の間から、猫が私を見ていることに気が付きました。
真っ白で、一瞬 ”ギクリ”とするほど、やせ細っています。
あまりの痩せ具合に、何か食べさせるものはないか?と考え、
昨日焼いた、ししゃもの残りを取りに戻りました。
冷蔵庫から、ししゃもの尾をつまんで持ち、猫の近くへと
運びました。猫の鼻先のコンクリートの上に魚を置くと、
近くの草むらから ”サーッ” と1匹の茶色い”子猫”が出てきて、
ししゃもをガツガツ食べ始めました。
私はあっけにとられ、白猫を見ると左右の瞳の色が違う美しい猫でした。
白猫は子猫が食事をしている姿を、穏やかに見ています。
白猫は母親だったのです。
時間を気にしながらも母猫のために、もう1度ししゃもを取りに
戻り、再度、白猫の前に置くと、母猫は食べません。
すると子猫が最初の魚を食べ終わり、2匹めの魚を食べ始めました。
白猫はその様子を見守っています。
もう、1本乗り遅れたであろう電車の時間が気になり、私はその場を
後にしました。
その時は深くは考えませんでしたが、その後、私が妊娠、子育てを
していく中で、迷いや悩みが生まれたとき 、”ふと” あの白い母猫の姿を
思い出すのです。
凛とした母親の姿を見せてくれた、あの白猫を・・・