息子が樹海で保護された日⑤
私たち夫婦は、息子と適度な距離を保ちながら、
連絡を取り合い、今日に至るまで様子を見続けています…
あの日。
聞きたかったけれど、聞くことが問いつめることになり、
問いつめることが追いつめることになるような気がして、
尋ねることが出来なかったことを、後日、手紙にして息子に送りました。
” あなたが巣立った日から一日だって、想わない日は無かったよ ”
” あなたの抱えている荷物は、生きていくことが出来ないほど
重いものなの?”
” その荷物を親と分け合うことは出来ないの?”
” あなたはいつも笑顔だったけど、心は泣いているの?”
息子が手紙を読んだであろう時刻を見計らって、電話をしてみました。
すると、
「母さん・・・こんな事をしたら、僕の気持ちは、あの日に戻っちゃうんだよ・・」
と消え入りそうな声で、絞り出すように言いました。
私は「ごめんなさい…もう聞かないから安心して」とだけ言い
電話を切りました…
樹海で保護された日。
”持っているもの全部、捨てようと思った”
と息子は言いました。あの時、息子が言った言葉の意味が
すぐにはわかりませんでした…
しかし、今は、はっきりとわかります。
” 仕事、友人、家族、そして自分の命 ” それら全てを捨てようとした。
電話が鳴るたび、”息子に何かあったのでは?”と怯える毎日が続きました。
私は日々、息子を想い、
”もう大丈夫かな? もう大丈夫だよね?” と心の中で
問いかけます。
しかし、あの日のことは、私の心に暗い影を落とし、きっと忘れることは
出来ないのだと思います…
息子は ” もう大丈夫だから ”とは、決して言ってはくれないのです・・