骨董市から来た怖い人形
それは母が生前、東京に住む友人宅を訪れた帰りのことです。
駅へ向かう途中に神社があり、その境内にたくさんの人が出入りして
いました。見ると”骨董市”が開催されていたようです。
母は普段は縁のない、その場所に足を踏み入れ、ぶらぶらと時代物の
品々を見ている途中、いくつかの人形が並んだお店の前で足を止めました。
西洋の人形たちです。髪や瞳の色が様々で皆、素敵なドレスを身にまとって
います。湯呑みや皿、着物など日本の品がずらりと並ぶ店の中で、
この人形たちは、ひときわ目を引いたそうです。
母は吸い寄せられるように、深紅のワンピースを着た
人形の瞳をのぞき込んでいると、
「その人形なら、勉強させてもらうよ」と初老の店主に声をかけられました。
値引きをして頂いても、少し値が張るなと思いながらも、すっかり人形に
魅せられてしまった母は、人形と共に帰宅しました。
私は実家に行った折に、骨董市での母と人形との出会いの話を聞きました。
確かに、ベルベッドのドレスとお揃いの布の帽子を被り、
あごで”ギュッ”と帽子のひもを締めた姿は愛くるしいと思いました。
しかし、ある時、私は気が付きました。
いつも母の横で微笑んでいた人形が、リビングの出窓に置かれ、
うしろ向きに飾ってあることに。
母に尋ねると、言葉を濁して理由を教えてくれません。
そういえば、人形が骨董市に並んでいた経緯を母は店主から
聞いていませんでした。
帰り際、ふと人形に目をやると、窓ガラス越しにこちらを
にらみつけているように感じ、背筋が冷たくなりました・・・
その後、急逝した母と、この人形には、何か関係があるのでしょうか?
母が亡きあと、あの人形は、あの場所で、次の所有者を
待っているのかもしれません・・・・