「ネルとブルーと僕」①
春が近づき、息子の部屋の片づけを始めました。
転勤が決まれば、実家に戻ってくると思ったからです。
本棚のファイルから高校時代、現代国語の宿題で書いたと思われる、
作文?のようなものが出てきました。
現実に我が家の近くにいた猫ちゃんの話です。
”猫好きな方”に読んで頂けたら嬉しいです・・
「ネルとブルーと僕」 その1
初めてネルに会ったのは、冬のとても寒い朝。いつものように僕は起き、ウッドデッキを
眺めていると、ひとつの植木鉢の中に見慣れない物を見つけた。近づいて確かめると、
白でも黒でも灰色でもない、その三色を合わせたような猫だった。最初、僕は死んでいる
のかとドキッとしたけれど、お腹のあたりが一定のリズムで動いているのを発見し、安心
した。そしてその猫は眠そうな顔で僕を見上げ、何事もなかったかのように再び眠ったの
だった。
それからその猫は、毎日ウッドデッキにいた。植木鉢がよほど気に入ったらしく、たいがい
丸くなってその中で寝ていた。寝てばかりいるから僕はその猫を「ネル」と名付けた。
冬本番になり、雪がチラつきだしたある日、ネルも寒いだろうと、僕は自分の小さく
なったフリースのトレーナーをハサミで丸く切り取り、ネルのいない間に植木鉢に敷いて
やった。戻ってきたネルは鉢の中を見て一瞬たじろぎ、おそるおそる腰を下ろした。そして
満足そうに眠り込んだ。
寒くて長い冬の間中、ネルはエサを探しに行く以外、ほとんど植木鉢の中で寝ていた。
時々、大きな黒猫や意地悪そうな三毛猫がやって来ると、ネルはあわてて逃げ出し、
一時間もするとまた戻って来るのだった。ネルは他の猫に対していつもおびえているよう
だった。
春になり、暖かくなるとネルは植木鉢から出て、ウッドデッキの上で寝るようになった。
僕がデッキに出るとネルは警戒し、二、三歩後ろに下がる。それ以上近づくとサッと姿を
消してしまうのだった。ネルはオスなのか?メスなのか?若いのか?年とっているのか?
全くわからないまま時が過ぎた。
新学期になり、僕は新しい環境になじむことに集中していた。朝デッキにネルの姿が
見えなくなっても、さほど気にもとめなかった。
ある朝、学校へ向かう道の途中で子猫の鳴き声を聞いた。声のする方を見ると、建築
会社の資材置き場の木の間から子猫が五匹、顔を出していた。毛が白いのと黒いの、
茶色と灰色、そして最後の一匹はうすいオレンジ色だった。そのかわいい姿に足を止め、
くぎづけになっている僕の横を一匹の猫が子猫の方へと近づいていった。ネルだった。
ネルが母親になっていたのだった。
それから僕は毎朝、ウッドデッキにネルの姿を見つけた時は、朝食からウインナーや
魚を取り分け、こっそりネルに与えてやった。ネルは決してここで食べず、口にくわえて
子猫達のところへ運んでいるようだった。 つづく
☆10年以上前の出来事です。今は地域猫もいなくなり餌やりはしていません。
思っていたより長くなってしまいました。
つづきは明日にさせて頂きます・・
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