「ネルとブルーと僕」③
息子の部屋からでてきた、高校時代の作文(実話)の最終日です。
”猫好きな方”に読んで頂けたら嬉しいです。
↓ 昨日のつづきです。
「ネルとブルーと僕」 その3
ある夜、ブルーの声がするのでカーテンをチラッと開けて見てみると、あの大きな
黒猫とネルが寄り添って、ピョンピョンはしゃいでいるブルーを仲良く見つめていた。
この時僕は初めて父親の存在を知った。残りの子猫達はどうしているのだろう。
涼しい風が吹きはじめ、秋の気配を感じはじめた頃、真夜中に僕は猫の鳴き声で
目が覚めた。つらそうな何かを訴えるような声。ネルだった。すでにこの頃には
僕は近所にいる数種類の猫を鳴き声だけで判別できるようになっていた。
普段めったに鳴く事のないネルが、どうしたのだろう。声は風に乗って遠くから
響いてくる。
明朝、僕はすぐデッキを確認した。いつもいるはずの二匹の姿が無い。急いで近所を
探しまわったが二匹を見つけることはできなかった。
何日か過ぎて学校からの帰り道、雨でずぶぬれになりながら歩いているネルを
見つけた。良かった。無事だったのだ。ネルは古びたアパートの前に来ると
ひとつの部屋のドアの前で腰を下ろし、「ミャア、ミャア」と鳴きだした。
いつもブルーを呼ぶときの優しい鳴き方だった。僕はブルーはこの部屋の住人に
飼われたのかなと、ふと思った。
しばらくして、ネルはデッキに帰って来た。その姿はやせこけて、まるで
違う猫のようだった。ブルーと並んでよく座っていたベンチの下で一人、
目を閉じている。僕はネルの好きなハムをあげてみたけれど食べようとしない。
その姿はブルーとの楽しかった日々を思い出しているかのようだった。夏の
打ち上げ花火の音に驚いてふるえていたブルー。好奇心いっぱいで輝く青い瞳を
のぞかせていたブルー。ネルのそばで安心して寝ていたブルー。僕の足元に
すり寄ってきたときの、やわらかい感触。二匹が寝ていると、太陽光線で
ネルが銀色に輝き、ブルーが金色に染まり本当にきれいだった。
あれから随分長い時間が過ぎたけれどブルーの姿は、もう見かけない。
ネルはいつもの場所でブルーの帰りを待っているようだ。僕も青くて
高い空を見上げながら、ブルーの帰りを願っている。 おわり
☆10年以上前の出来事です。今は地域猫もいなくなり餌やりはしていません。
3日間、お読み下さった方、本当にありがとうございました。
一度は巣立った息子が転勤で再び、この部屋に帰ってくる!
という期待を胸に息子の部屋の掃除をしていました。
息子が書いた猫の作文の”ネル”のように、私も子供の帰りを
待ち望んでいます・・・
☆猫の話 3話読んで下った方いらっしゃいましたらポチで教えて頂けると嬉しいです
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