嫁いだ娘の初めての里帰り
「ママー 明日 帰るね!」
と金曜日に電話があったのは、嫁いでから3か月が過ぎた頃でした。
「良太さんが明日出張でいないから、わたしも家に帰ろうと思って」
私は天にも昇る気持ちになりましたが、平静を装い、何が食べたいか?
を聞きました。娘は食べたいものより、作れるようになりたい料理を
リクエストしたので、材料をそろえにすぐにスーパーへ行きました。
翌日。駅まで車で迎えに行くと後部座席に乗り込んだ娘が
「結婚してから何度も帰ろうと思った。だけど平日は仕事で週末は
買い物で、来る余裕がなかったの。きっとママがさみしがっているだろうなー
って思ってたけど・・・」
娘の声がだんだん小さくなったので、バックミラー越しに見てみると
娘は少し涙ぐんでいました…
私は気づかないふりをして、明るく「一緒にお料理作ろうねー」と
声をかけました。
娘が巣立ち、私がさみしがっている事を娘は充分わかっていたのだと
知り、心配をかけないように振舞わねばと強く思いました。
1泊だけでしたが夫もひどく喜び、娘と長い時間、談笑していました。
翌日は、よく行っていたショッピングモールへ娘が行きたいと言うので
3人で出かけました。以前は自分の洋服を見て回っていた娘でしたが
服には見向きもせず、美味しい物が並んでいる地下街で、サクランボや
洋菓子を買い求めようとしました。
お会計は親がと思い、良太さんと夕食に食べるようにと牛肉の乗った
お弁当も2つ買いました。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、暗くならないうちに娘を帰宅させようと
駅へ送りました。どうやら出張先から良太さんも自宅に戻っているようです。
「また来るからねー!」と手に保冷バッグいっぱいの食品を持ち
車を降りた娘のうしろ姿は、もう良太さんにおみやげ話をすることで
頭がいっぱいのように見えました。
夫と家に戻ると、
そこは水を打ったような静けさに満ちていました・・・