娘が巣立った日①
2020年春。
娘が入籍し家を出ました。
私の時代は結婚式当日まで実家に住み、式の後、新生活に
入るのがスタンダードだったような気がします。。
しかしコロナ禍で結婚式も延期中。
いつ挙げられるか?わからないので、入籍をして2人の暮らしを
スタートすることに決めたようです。
娘は会社員で日中、出勤していましたので私が新居で使う日用品を
少しづつ買いそろえていました。商品を選んでいる時には、
娘が使いやすい物、娘が困らないように、と意識を集中していたので
淋しさも忘れていました。
しかし帰宅して部屋いっぱいに並んだ品物を見ると巣立ちの日が
近づいているのを感じずにいられませんでした。
家を出る当日の朝。
靴を履いた娘に「最後に一度だけ抱きしめてもいい?」と声をかけました。
幼い頃、抱きしめた以来、大きくなった娘を抱きしめた事はありません。
娘は一瞬、驚いたようでしたが「わたしは大人だよ〜」と言いながらも
それを許してくれました。
本当はギュッと力強く抱きしめたかったけれど、包み込むように、
そっと手を回しました。やわらかくスズランのような香りがする娘の
耳元に「幸せになってね」とひとこと言うのがやっとでした…
夫と3人で駅へと向かう車の中は静かでした。
まもなく駅へ着くという時、
「わたしは、またすぐに帰って来るから大丈夫よ〜」
と娘が明るく言いました。
駅へ吸い込まれる娘のうしろ姿を夫と二人、見えなくなるまで見送りましたが
振り返ることは一度もありませんでした。
娘は弾むように歩き、良太さんとの新生活に胸をふくらませている
ようでした・・・